2024年3月16日土曜日

翳りゆくひと。[019]


[019]

見つかったのはガス代の請求書だけではなかった。
ひとつはマンションの管理費の引落口座の変更届。2月に管理会社に電話して送ってもらえるよう依頼してた件だ。わたしは「なくなってなかった」と喜びつつも半ば驚きながら、その書類にマサさんの年金受給口座であるFA口座の情報を記入した。

そしてもうひとつ、携帯電話料金の請求書も。2月にハガキで口座引落の申込をしたのに。

「また銀行の通帳記入してくるから、通帳貸してくれるかな」
「お昼ご飯、何か買ってくるから」

あっちゃんにそう言い残して、わたしはすっかりおなじみになった携帯電話ショップに向かった。途中、コンビニでガス代の支払いをし、そしてマンション管理費の引落口座変更届を投函した。

「2月に口座引落の手続きを、ハガキで出したんですが」
「確認しますね・・・・まだ請求書払いになってますね。ハガキで送られた手続きには数ヶ月かかることもあるので」
「老人のふたり暮らしなので、請求書払いだとどうしても滞ることがあるんですよね。以前こちらで契約名義の変更をお願いしたら回線数の問題でダメだったので・・・」

完全に愚痴である。クレーマーになってなきゃいいんだけど。

「契約名義は変えなくても、お客様の支払いの子回線として紐づけることはできます」
「え?」

マサさん名義の契約の支払い方法を、私の契約にまとめてぶら下げる――そんな方法があるなら先に教えてよ、とは思ったけど、名義を変えられるかどうかを聞いただけなので、支払いの方法の話を深く聞いたわけではなかったか。
いずれにしても、これで電話料金は毎月わたしが、登録してあるわたし名義のクレジットカードで支払うということになったわけで、電話が止められてから4ヶ月半、ついに最大の懸案が解決したことになる。

そしてマンションの管理費も手続きが終わったので、これで公共料金関係はひととおり大丈夫になったかな。

実際には医療保険とか固定資産税なんかがFB口座から落ちてるけれど、ここは正直把握しきれてない。多少はしかたない。残高、気をつけておくようにしよう。

「ただいま。少し遅くなっちゃったけど、お昼、お弁当買ってきたよ」

駅前の商店街で買った、なんだか身体に良さそうな小ぶりの手作り弁当を2つ、ダイニングテーブルに広げた。
あっちゃんには「通帳、ありがとう。すぐにいつものところにしまって」と声をかけた。

「さて、そろそろ行かなきゃ」

わたしは時計を確認した。
あっちゃんには「このあとサッカーを見に行く」と思われているみたいだったけど、実際はこの日の午後、わたしには「小規模多機能ホームいぬかい」への訪問のアポがあったのだ。
説明するのも少しばかり面倒だったので、そのままにしておいた。サッカー観戦の予定は翌日である。

「いぬかい」へは、マサさんちのマンションからは、たぶんバスに乗っていくのがいいのだとは思うけど、路線バスというのは異邦人にはハードルが高い。ならば歩いて行ってしまおう。

約束の時間より少し早めにいぬかいに到着してしまったので、周囲を見て歩いた。
施設のとなりには総合病院が建っている。系列の病院のようだ。それは大きな安心材料だと思った。

いぬかいでは先に電話で話したヨコミツさんと、ケアマネージャーのサダカタさんと話をすることができた。

マサさんの現状、それからふたりの近い将来のこと、そのためのカネのこと。

ざっくばらんにいろいろと話ができた。そしてこれからも相談に乗ってくれるという。
わたしはそのことだけでも、今回飛行機に乗ってきた意味があったような気がしていた。

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